9マイルは遠いんだから

なんかの感想

1/6のsolanum またはOuter Wilds感想

 

すごいゲームだった……


私が人生でやってきたゲームの中で殿堂入りはシレン2とトルネコ3と逆転裁判3なんだけど、今後はここにOuter Wildsが入る


一つの世界がたしかにそこにあって、私は主人公の四つ目を通してそれを眺めた。最高の体験だった。

 

 

あらすじ

四つ目星人の宇宙飛行士である主人公は、古代にこの恒星系に住んでいた三つ目星人の言語翻訳ソフトを携えて宇宙を旅する。しかしこの恒星系は恒星の超新星爆発によって滅ぶ運命にあった。
哀れ主人公は宇宙の藻屑に……となるところだが、しかし謎の力で22分前にループすることになる。

こうして主人公はループを繰り返しながら、宇宙を旅するのであった!

 

 

あらすじの通りこのゲームは22分を繰り返しながら宇宙を探索するゲームなのだが、何をすればいいのかが全く漠然としている。
最初にしつこいほどに仲間の四つ目星人たちから「宇宙で何するの?」って聞かれるけど、始めたばかりでそんなこと知るわけないじゃん。
でも、ループを繰り返し、各惑星や衛星で気ままに過ごす先輩宇宙飛行士と出会って歓談したり、三つ目星人の残した石碑を解読していくうちに、今度はこの星に行って調べてみよう……となんとなくやりたいことが見つかっていく。
三つ目星人が到達したいと願う、宇宙そのものを観測する「宇宙の眼」への到達である。
三つ目星人はそこへ辿り着く前に絶滅してしまったけど、多分主人公がそこに到達することが目標なんだろう!と考えて、とりあえずやってみる。

主人公=プレイヤーになるゲームとして最高峰だと思うのが、このとりあえずやってみようという動機が自然発生するところだよね。
オープンワールド通り越してオープンユニバースゲームとしてワクワクドキドキを提供してくれる。グッド。

 

 

 

 

いや、こういう紹介をしたいんじゃないんだ。

 

 

 

 

たかが感想、たかが紹介なんてありふれている。

私がここで吐き出したいのは古代三つ目人の生き残り(?)である彼女、Solanumのことだけだ。
日本語版をプレイしたが、このゲームは名称だけ英語を採用しているため、それに則ってSolanumと表記する。
Solanumとはつまりナスのことである(古代人は多分野菜の名前から名付けている)が、ここではナスちゃんとは呼ばない。
ナスと表記するとどうしても実のイメージが先立ってしまって、白い花の可憐なイメージに繋がらないからである。

 


まず、outer wilds世界では量子的ふるまいをする衛星が存在する。
それは量子の月と呼ばれている。ムジュラっぽいならばこの月がラストダンジョンなのか?と思ったが違った。

ここでの量子的ふるまいとは、位置の不確定性と、観察による状態の固定を意味している……と私は認識している。

5+1(通常の手段で降り立つことのできる惑星と、宇宙の眼)の星の全ての衛星である可能性がそれぞれ存在し、プレイヤーが衛星を認識したときに初めて惑星Aの衛星という結果に収束する。ということであってるのかな。

つまり、プレイヤーが見ているときには惑星Aの衛星でも、目を離す=観察をやめると惑星Bの衛星へと状態が変わるということである。

 

主人公は量子の月へ、観測をカメラで固定化するこてで降り立つことができる。
そこに建てられている量子的神殿を密閉し、月から見える風景の観察を一旦止めることで月は別の状態へと移行する。量子的風景を楽しみながら探索していくと、ふと、誰かが倒れているのを発見する。

 

古代人の死体である。

宇宙服に包まれた古代人が死んでいる。

 

古代人の多くがそうであったように、幽霊物質の拡散によって死に絶えたのだろう。
主人公は古代人に対して何もできない。古代人は何も書き残していないから、翻訳もできない。ただ、それを素通りして量子神殿へと入るしかない。

宇宙の眼の衛星状態に変化させて、神殿から出ることで、主人公は他のどれとも違う状態の衛星を探索する。ふと、目の前に誰かが立っているのをみつける。

そこには生きている古代人がいる。

彼女こそがSolanumであり、そして生きている確率を持つ最後の古代人である。

 

つまり彼女が量子の月にいるときに宇宙全体へ絶滅を引き起こす物質が放射線を出し、重なり合った6つの状態のうち5つの状態の衛星が被爆したのだ。
その結果、量子の月にいた彼女もまた被爆して死んだ彼女と、ずっと遠くにある宇宙の眼状態にいて生き延びた彼女が重複することになる。
したがって、観測者である主人公が5つの状態の衛星を観測しているときには彼女は死んでおり、宇宙の眼状態を観測しているときには生きていられるということになる。

 

古代人である彼女と主人公は直接会話することができない。
古代人が石板に文字を書き、それを読み取るだけの一方的なコミュニケーションだ。
それだけだが、彼女の知的な人柄とこちらを気遣う優しさ、そして圧倒的な諦めだけは伝わってくる。

 

「たぶん、私の旅は終わったんだと思う」

 

と、彼女は言う。

私はここで泣いてしまった。
宇宙船の操作もおぼつかないまま宇宙に出た主人公は、言わば最も新しい旅人だ。そしてSolanumはこの宇宙で最も古い旅人である。
そんな彼女の穏やかな諦めを前にして、彼女の手を引いて、たとえ22分の宇宙だとしても今の宇宙をもう一度旅をしようと言いたかった。


けど、主人公はそれをしない。伝えられない。

 

もしかしたら、きっとSolanumは何度も神殿を利用して帰ろうとしたのかもしれない。


わからない。

 

1/6の状態でしかないけど、それでもSolanumに出会えてよかった。

 

「私があなたのことを友達だと思っても、気を悪くしないでほしい」

 

そう彼女は言う。この広いんだか狭いんだかわからない世界で出会ったらもう友達だと答えたい。

 

一方通行の言葉で伝えてくれた彼女に主人公がどう答えるのかはEDにある。
宇宙の眼に到達した主人公は彼女を自分たちのセッションに加える。鼻歌とバンジョーとハーモニカとドラムとオーボエの曲に、彼女のピアノが重なる。

音を合わせるのは心を合わせるのだと、小学校の音楽教師が言っていたことを聞き流していたけど、だいたいにしてその通りなのかもしれない。

この宇宙に散らばる旅人たちの心は新しい宇宙への期待で沸き立って、それで……

 

 

恥ずかしながら私は超新星爆発は古代人の生き残りによって引き起こされた人災であると思っていた。
それこそムジュラの仮面のように、天災を起こそうとする相手がいるものだと思っていた。
でも本当のところは全然違って、ただ好奇心と高い倫理観、使命感を持つ知性存在がいただけだった。

 


この宇宙のずっと向こう、オールトの雲だとか、事象の地平面だとかの向こうにはきっと別の宇宙がある。知性存在が構築する文明がある。
もしかしたらそれは恒星が3個だか4個だとかある世界かもしれないし、音を食べる生物とか不思議な生物がいる世界かもしれない。
そういった想像力を掻き立てるこのゲームは、疑いようもなく最高のSFだった。

 

 

 

Outer Wilds ドキッとした瞬間リスト

・木の炉端の裏側にあるイバラの種子の内部から、行方不明の旅人の吹くハーモニカが聞こえる

・アンコウのあんちくしょう

超新星爆発は人為的に起こせなかったという事実

・ループから起きるたびに最初に目に入るロケットの射出角が毎回違うことに気がついた時

・アンコウのあんちくしょう

・砂時計のサボテン(どうしてそんなところにあるの?)