9マイルは遠いんだから

なんかの感想

the sexy brutale 感想考察(ネタバレありまくり)

PV見て10秒で購入決めたゲームは初めて。

ジャズ調のBGMが神懸かってるのに加えて、システムがとりわけ面白い。


とある公爵が運営するカジノ『the sexy brutale』において、舞踏会さながらに仮面を被ったゲストが使用人たちによって惨殺されていく。
主人公である老いた宣教師ラフカディオ・ブーンは時を遡る懐中時計を使って全滅するまでの12時間を繰り返し、ゲストたちが殺されないように動いていく。

 

屋敷にはいくつかのルールがあり、
①ゲストと使用人と直接会ってはいけない
②ゲストと使用人のスケジュールは変わらない
③時を遡るとセーブした時計へリスポーンする
が主なもの。
この①が曲者であり、ラフカディオはゲストや使用人のいる部屋に入ることはできない。入った瞬間仮面に追いかけられる。そのためゲストに向かって「殺されるぞ」と警告することができないのだ。
助けるためには②のルールを利用する。ループを繰り返して被害者と犯人を徹底的にストーカー。スケジュールと殺害方法を把握して、犯人の裏を描く形で殺害を阻止する。
ムジュラの仮面の世界観にゴーストトリックのパズル要素を合わせたようなゲームシステムだった。
途中主人公の脚が遅いのがやや気になるが、ラフカディオは老人なんです。許してやってください。

 


以下感想

 

○ミステリーについて
銃殺から屋敷の仕組みを使った遠隔殺人、果てには謎の怪物による呪殺まで……こんなのありかよ!って殺され方もある。
しかし世界観が「魔術とオカルト」なのでなんとなく受け入れられてくる。まあそもそも時間巻き戻しものだし。
このゲームをミステリーとして見たとき、事件単品は主役ではない。真骨頂は殺人事件の連動そのものである。
少し前に殺された死体を使って被害者を混乱させたり、銃声によって被害者が焦り始めたり、犯人が被害者の片付けに来れなかったり……
ビリヤードの球のように相互に影響を及ぼし合う複数の事件こそがこのゲームの面白さであると言える。

 


○BGMについて
ゲームにおける12時間は大体10分程。
BGMもフルで10分程。
おわかりいただけだだろうか。一日とBGMが連動しているのである。
館のどこかでガラスが割れる音や銃声、謎の停電によって電灯が瞬く音まで全てが計算済みであり、BGMの拍や転調に噛み合っている。
狂的なまでに時計仕掛けなジャズは聞いていて飽きが来ず、リスポーン地点である柱時計の前で一日寝っ転がって聞いていたことがあるくらいだ。
全員が死んだ11時〜ループする12時までの曲調がとりわけ味があり、カジノだったら「またお越しください」と嘲笑われるかのようなピアノ、劇場だったら被害者の死体をショーに見立てたかのようなファンファーレが鳴り響くなど悪趣味に塗れている(褒め言葉)。

 


○キャラクターについて
執拗にストーキングをしているからか愛着が湧く。
独り言からどんな思惑でどんな行動をしているかが理解でき、それが生存への助けになることもある。

特に二面であるところのカジノで死ぬ予定の恋人同士の関係が素敵。
カジノでディーラーロボット相手に負け続けているクレイに怪物蜘蛛に襲われるトリニティーの姿を届けることができさえすれば、クレイは彼女を助けに行くことができ、毒の入った酒を飲まずに済む。
その助けに行く際にカジノのディーラーロボットが「なんという幸運でしょう」と言うのにニヤリとした。

犯人である使用人たちも個性が豊か。
音楽を愛するものであったり、言動が奇矯であったり。舞台の黒子のような存在でもあり、ある意味で主役でもある彼らはどこか親しみがある。
トランプマークの描かれた髑髏の仮面というのも良い。統一感がありながらマークによって個性を出している。
BGM11時〜12時のピアノパートはもしかしたら彼らの独擅場の意味合いも兼ねているのかもしれない。

 

 


以下ネタバレ感想考察

 

 

 

 

 

○世界観感想
ゴールデンスカル仮面(ルーカスの罪の意識)と血塗れの少女(ルーカスの贖罪意識)による幻想世界上での対戦がこのゲームである。
黄金髑髏の心臓たるトリック、つまり全滅の真相が時限爆弾であるのも、うみねこを思い起こさせた。
この館には殺人者はいません」って赤字で言いたい(この「殺人者」とは殺そうとして殺す犯人のことを指す)。

館の保険金目当てに主人であるルーカスは爆弾で館を吹き飛ばすことを計画していた。ゲストたちと最愛の妻を館の暖炉から全員避難させ、誰も死なずに館の保険金だけを得ることができる完璧なトリックであるはずだった。
しかし時限爆弾は予定より早く爆発、ゲストたちと妻は全員焼死した。
ただ一人、ルーカスだけは時計塔の上から身投げしたことで皮肉にも命を取り留める。
The sexy brutaleは生存してしまったルーカスの幻想世界であり、そこでルーカスは親愛なる友人たちの死の想起を繰り返している。

いつしかルーカスは繰り返される悪夢の中で、自分の過失、爆弾によって殺してしまったという事実から目を背けるために、「ゲストは使用人たちによって殺されていた」という三文ミステリ小説のような妄想をし始める。
爆弾という真実を隠すための仮面を纏い始めた。この自己欺瞞の象徴がおそらく黄金髑髏。
殺したのは自分じゃないという悲痛な願望であり、それを俯瞰する皮肉さを併せ持っている。

自分が殺したという事実からは目を背けることができたが、それでもゲストたちが殺されるのを悪夢として見ているのは辛くて堪らない。
また、こんな悪夢に苛まれている自分を妻はどう思うだろうか。きっと永遠に苦しむのを望まないだろう、彼女はルーカスを愛している。そんなことは理解している……愛と絶望から生まれたのが妻の形をした血塗れの少女である。
血塗れの少女の導きによって、ルーカスは自分の親友であり尊敬していた宣教師、ラフカディオをアバターとして幻想世界を歩き始める。
いつかこうなりたかった自分であるラフカディオに友人たちを救わせることによって、幻想世界においてヒーローになった。真実から目を背け、どんな形であれ苦しみから解放される筈であった……

それでもルーカスにとって館を出る=夢から覚める結末は良いものであったと考える。
救いではない。ただの自己満足に過ぎないが、かつての妻はそれを肯定するだろうと。
ルーカスが自分の罪を受け入れるためだけの、酷く迂遠な物語であった。
EDのオペラがなんとも言えない余韻を残していて、どこまでもルーカスの一人芝居でしかなかったという寂しい結末に花を添えている。

 

 

○仮面考察
仮面は役割の象徴であると言える。
ゲストたちはみな「殺される」という役割を持つ舞台役者であり、その筋書きから外れることで仮面を外して素顔を見せる。
また、罪悪感を抱えた現実ルーカスにとって自分が殺してしまったゲストたちの顔は幻想の中であっても申し訳なさで直視できない。仮面はそれを隠すための防衛機構とも言えるのではないか。手癖の悪いことを暗喩する錠前の仮面、友人を諫めることのない妄信ぶりを皮肉った闘牛の仮面のように、ゲストたちの悪徳を揶揄した仮面を通さないと見ることすらできないのかもそれない。
そして使用人が仮面をつけているのは「自分ではない誰か」であるから。
皮の上に被さるのが仮面ならば、筋肉が剥き出しになったおぞましい様の血塗れの少女は、ルーカスが最も直視できないものであり、それでいて嘘で覆い尽くしたくない程愛している存在であるのだろう。
そして最後の豪奢な仮面をつけたラフカディオは「救う」役割である。

 

 

○現実ラフカディオ=ルーカスなのか?

正直この議論がしたくてブログを書いた。
幻想ラフカディオに館と爆弾についての朧げな記憶があるのは幻想ラフカディオ=ルーカスのアバターであるから。
ならば現実世界のゲストの一人であった筈の宣教師は誰なのか。

現実世界の追体験において、「ルーカスが誰も殺さない爆弾の証人として選んだ筈の人間は12人」である。ここ赤字ね。

レジナルド、クレイ、トリニティーウィローテキーラ、グレイソン、レッド、オーラム、サーノスで9人。

エレノアとお腹の中の子供を入れて11人。

「ルーカスの無実を証明する証人」はルーカス自身を指すことはないため、「ラフカディオという宣教師は現実世界に存在する」ここも赤字。

使用人については無視する。ルーカス視点において使用人の存在は特に気にかけるものではないだろうから。

自明だが改めて確認をしておきたかった。うみねこ式に赤字使用したい。

 

さて、幻想ラフカディオの手形画面の下は老いたルーカスであった。しかし現実のラフカディオの顔は?

 

① 現実ラフカディオ=タイムスリップした公爵
繰り返すループから抜け出し、歳を重ねたルーカス(つまりエンディング後)が過去へタイムスリップして再び公爵の館へ赴く。
それなら爆弾の不具合という事実を知っているし、止めた筈なのでは?と思ってしまう。老いによって記憶が磨耗したと言われればそれまでだが。
陰謀も殺人も魔法も存在せず、ただ過失による事故死であるというのが現実世界の非情な真実であるが、ラフカディオ=ルーカスの存在だけは本物の魔法だったという考えは非常に夢がある。


② 現実ラフカディオ=公爵ではない
元ギャンブラーで老いた宣教師。公爵の友人である。それだけ。
おそらくイニシャルが同じということで話し始め、仲良くなったのだろう。ルーカスの現在と似た過去を持つラフカディオは、ルーカスにとって憧れであった。
現実ラフカディオはおそらく礼拝堂の一部屋で焼け死ぬことになっている。幻想世界においてもおそらく使用人によって人知れず殺されていただろう。
しかし、血塗れ(=ルーカスの救済されたい心)に幻想世界内のアバターとして選ばれる。
ルーカスは日頃から自分がラフカディオであったらという空想をしていた。その名残であるのかもしれない。
仮面は「殺される」という役割の象徴であり、現実ルーカスが「顔を見ることすらできない」ことの現れだと先に述べた。
現実ラフカディオの顔が出ないのは、ルーカスが幻想ラフカディオをあまりに自分と同一視しすぎて、もう素顔を思い出せないから。
余りにも身勝手な空想だけどこっちも好み。

 

①と②どっちが真実なのかはプレイヤーの解釈に任せられているようなのでわからない。

誰と誰が同一人物であるのか、が隠された謎となっているのもうみねこ感がある。

真相は藪の中だが、個人的には②のほうがルーカスにとって残酷な結末となるだろう。

 

 

長くなってしまったが、非常に良いゲームだった。

Steamで邦訳されているミステリー(3Dで視点酔いしないものに限る)は大体やってきたが、まだこんなに面白いものがあったのかという驚きがある。

また、購入を決めるまで誰かに勧められてネタバレをすることなくプレイできて良かった。

ムジュラの仮面うみねこゴーストトリックが好きなら買って損はない。

 

 

おまけ

○悪習の鍵エンドについて

こればかりはオマケ要素じゃないだろうか。

館を全て探索し尽くした果てのちょっとしたご褒美というか。

存在しない筈の部屋に繋がれた怪物にトランプを渡すと、玄関ホールに飛ばされる。ダンスホールへの扉を開けると、そこでは使用人たちの演奏に合わせてゲストたちが素顔のままで踊っている。

車椅子で器用に踊るサーノスに、調子の外れたダンスをするグレイソンとレッド、端で静かにリズムに乗るウィロー……そして、ホールの中心で踊るルーカスとエレノア。全員が幸福であり、満ち足りた結末だ。

しかし一人だけ仮面をつけたラフカディオは、ステンドグラスを割って外に出る。画面は白く染まってそのままエンディング。

夢のようなもしもイフの世界だった。

ダンスホールにおいてのレジナルドのセリフ「姪(エレノア)が幸せならそれでいい」がこの夢の全てを表しているように思えてならない。